HSPは、医学的に確立された概念ではない
HSPという概念については、精神医学や臨床心理学を修め、研究してきた専門家の中でも意見が分かれています。
HSPは気のせい、という人もいれば、HSPに肯定的な人もいます。
人によって意見が分かれる理由はいくつかありますが、その1つは「感覚が過敏」という症状だけで、その傾向がある人を一括りにして解説するのは大雑把だというものがあります。
HSPの提唱者であるエレイン・N・アーロン博士は、ユング派という、科学的な議論に厳密ではないタイプの人です。
アーロン博士自身がHSPであり、自身の感覚過敏に向き合ってきた体験も踏まえて、同じように悩む人たちに向けた本を執筆したことが、HSPの起点です。
そして、それが自分の過敏さに悩む多くの人々の心を掴み、世界中に広まっていった概念になります。
とはいえ、感覚が過敏な理由は人それぞれなので、そうした個々の背景を無視して一括りにしまうことは、人によっては的外れな見解や、見当違いなアドバイスを生んでしまう危険もあります。
実際、HSP自己診断テストでHSPの傾向が認められても、その由来は人によって異なります。
感覚が過敏になるHSP以外の症状について
感覚が過敏になる症状について、ここでは2つ紹介していきます。発達障害と愛着障害です。
発達障害
生まれつき、脳の働き方に特性があり、その特性が行動や情緒面にも影響するため、社会生活に支障が生じる障害と考えられています。
その特性の中に、感覚過敏が含まれていますが、発達障害の人は感覚情報の処理がうまくできないこと(感覚処理障害)が起因とされています。
HSPは五感が高感度で、取り入れた情報を深く処理するために感覚が過敏になり、発達障害とは傾向が異なる
また、発達障害の人は脳内のミラーニューロンという、他人の行動の意図や意味を理解する脳の活動が低く、他者理解が難しい場合があります。
- HSPは、ミラーニューロンの活動が活発で、人の気持ちを察する能力が高いのが特徴
- 相手の気持ちや周囲のことを優先して、自分の発言を抑える場合があり、発達障害とは傾向が異なる
ここで、発達障害の特性を2つ見ていきましょう。
自閉症スペクトラム障害(ASD)の場合
①人とのコミュニケーションが苦手
②こだわりが強く、変化が苦手(常同性)
③感覚が過敏、もしくは鈍麻
①は、空気が読めない、他人の気持ちがわからない、冗談が通じない、言葉の裏の意味を読み取ることが難しい、などです。
②は、本人なりのルールがあります。例えば、決まった食べ物しか口にしない、決まった時間の決まった電車に乗り、決まったルートで通学・通勤する、などです。事情があって変更しようと伝えられても、変更することが難しい場合があります。臨機応変な対応が苦手です。
③は、聴覚過敏や嗅覚過敏がある一方で、痛覚が鈍麻だと痛みに気付きづらい人もいる、などです。
注意欠陥多動性障害(ADHD)の場合
①注意力の欠如
②衝動性
③多動性
①は、忘れ物をしたり物をなくしたりすることが多い、遅刻をしてしまう、人の話を聞いていないなどがあります。
②は、自分の思ったことを抑えることが難しいため、失言や暴言、軽はずみな行動につながってしまうことがあります。
③は、じっとしていることが難しい、一方的にしゃべりすぎてしまうなどがあります。
発達障害の人は、こうした特性を自覚しているからこそ、対人関係で気を使うあまり、HSPの傾向が見られる場合があります。
愛着障害
幼少期に特定の対象との愛着関係がうまく築けないと、基本的安心感や基本的信頼感が育まれないまま成長します。
愛着障害由来の感覚過敏で考えられる原因は、大きく2つあります。
①虐待(恐れ・回避型愛着スタイルの土台)と、②過保護・過干渉(不安型愛着スタイルの土台)です。
①幼い頃に心的外傷体験をした人は、感覚が過敏になりやすい
特定の愛着対象との身体接触は、子供に安心感を与えるだけではなく、過度な刺激から守る役割も果たしています。
そのため、身体接触が不足すると、子供にとって外界からの刺激が過多になってしまいます。
さらに、虐待のような耐えがたい刺激を受けると、身を守る術として、意識を遮断して肉体から分離するという方法を取る場合もあります(例:多重人格)。
自分で逃げるなどの行動ができるようになってくると、感覚を鋭敏にして、以下のような行動を取る場合もあります。
- 視覚:親の表情を見て、今は機嫌が悪そうだから外に逃げようと判断する
- 聴覚:隣室で物を投げている音がする、他の家族に怒鳴っている声がするから危険だと判断する
このように、自分の身の安全を確保するためや、不安な気持ちから、感覚が過敏になっている場合があります。
②幼少期に絶えず干渉されると、それが過度の刺激や不安の要因になる
親の過保護・過干渉は、子供の自立心を妨げます。
お腹が空いて泣くなどの行為は、子供が自分の欲求を知る手掛かりになります。
しかし、大人が先回りして食事を与えてしまうと、子供は自身の欲求を知る機会を失うことになります。
大人が自分本位の姿勢で接していると、子供は外の世界で、神経が高ぶった時に回避する機会も、対処する機会も、耐える機会も失われてしまいます。
こうした、自分で自分のことがわからないことが原因で、刺激に反応しやすくなっている可能性があります。
また、愛着障害の人の中には、発達障害の人と同様に、感覚処理障害がある人もいます。
これらの傾向も、HSPとは異なります。
愛着障害の詳細は、「愛着障害のカテゴリー」を参照してください。
まとめ
感覚が過敏になる症状は、HSP、発達障害、愛着障害があるが、どれも理由や傾向は異なる
大切なことは、自分の特性や傾向を知り、対処法を増やしていくことだと思います。
参考文献です↓
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